doubutsu


前回、「ポエムみたいな広告」について書いた。
ゆるゆるだったりふわふわだったり、

その商品やサービスを遠まわりして表現しているのだが、
遠すぎて広告としての力がどれだけあるのかわからないといった、

そんな芸術作品感覚のコピーがあると書いた。


しかし、そんなコピーばかりではない。

強い力を持ち、心に突き刺さり、記憶に残り続ける、

そして最も重要であると思われる

「人を動かす」コピーも実際にあるのだ。


「ポエムみたいな広告ばかりだ」と揶揄されていたある広告賞において、

「人を動かす」強いコピーに出会った。

動物愛護団体の広告(ポスターと思われる)のキャッチコピー

「捨てた日も、散歩と思って よろこんで出かけて行った」


この一文を読み、涙を流した方も多くいるだろう。

そこまでいかなくても、しばらく考え込んだ方、

何度も読み返した方も多くいるだろう。

この1行に、すべてのドラマが凝縮されている。

飼い主の感情、犬の感情、その両者のせつない姿が浮かび上がってくる。


心に突き刺さり、記憶にとどまり、そして、

犬を飼っている方、これから飼おうとしている方はもちろん、

今はまったくその予定がなくても、

いつか自分が犬を飼うことになった方も、

犬と対峙した時、このコピーが頭に浮かぶだろう。

そして、もし捨てようと考えることがあっても、思いとどまる方がいるはずだ。

なんとかならないか、引き取り手はいないか、

安易に犬を捨てるという行為がどれだけ罪深いものか、

そう考えて、思いとどまる方がいるはずだ。

それは犬に限ったことではなく、猫や、その他の動物であっても同様である。


この広告は、それだけの力を持っている。

そして、コピーもさながら、ビジュアルも檻に入れられた1匹の犬の写真だけで、

奇抜さも仕掛けも何もない。


「うまいこと書いてるだろう」

「こんな表現って今までなかっただろう」といった

薄っぺらな言葉のいじくりや、

「こんなビジュアルって誰も考えつかないだろう」

といった得意満面な表情が一切見えない、

簡潔なストレートの表現である。


動物愛護団体の広告ポスターは、これまでいくつも見たことがあり、

この団体をはじめ、いくつかの団体の広告がさまざまな賞を獲っている。

しかし、これだけ簡潔な表現のコピーは初めてであり、

そして、これまで見た動物愛護関連のコピーのどれよりも強い。

強く記憶に残るだけでなく、

「捨てることができない」と抑制させる強い力を持っているのだ。