25年前の冬、自律神経失調症を発症した。
原因については前回書いたとおりである。
わけもなく涙が出る、何もないのに動悸が激しくなり呼吸がしづらい、
月曜の夜に寝て、起きたら水曜の昼だった、
その他体にいろいろな異変が起こり、会社は休職にしてもらった。
ずっと家にこもり、寝て起きて、ぼんやりして、また寝て起きてを繰り返す。
当時つきあっていた彼女が時々食事を作りに来てくれたり、
時には「いつから寝てるんだ」とたたき起こしてくれることもあり、
ずいぶんと支えてもらったなと今さらながら感謝している。

そんな日が続いて、何回目かの通院の際、
家にこもってばかりじゃだめだ、
外に出て気分を変えなきゃだめだ、とドクターに言われた。
できれば外で何か集中できることにとりくめることが望ましいと言われ、
外で集中してできること=仕事、と答えると
会社が原因でこうなったんだから、
それ以外のことじゃないとだめだと一蹴された。
何かないかと考えて、思いついたのがボクシングである。

大学で4年間ボクシングをやった。
強くはなかったか試合にも出て、学生生活の大きなウエイトをしめていた。
4回生の夏以降は遠ざかっていたが、久しぶりにまたやってみようかと思った。
ドクターにそれを話すと、体を動かすことであるうえ、
さらに集中力が必要なことでもあるので、それはいいと賛成してくれた。
そんなわけで、自宅の近くにあるクレイジムに入会して、練習に通った。

当時のクレイジムは開設して2年目くらいだったか、
ジムもその当時は会長が自分で建てた丸太小屋のジムで、
練習生もそれほど多くはなかったと思う。
リングで練習するのも、ミットを打つのも、すべて初めてだった。
大学のボクシング部にはリングはなかったし、
ミットを受けてもらったこともまったくなかったのだ。
ボクシングの練習は初めてではないのに、
初めてのことが多く、練習が心から楽しいと思えた。

生活のリズムを作るために、毎日できるだけ決まった時間にジムに通った。
練習中は症状は何も出てこない。
後に気づいたのだが、何かにとりくんで集中している時は、
症状が出てこないのだ。
ボクシングの練習はもちろん、車やオートバイを運転する時も同様である。
逆に徒歩や自転車の時は、普通に歩いているつもりなのに電柱にぶつかるわ、
自転車ごと溝に落ちるわ、さんざんであった。

ボクシングの練習は楽しかった。
練習に行く時間を中心にして毎日がまわる。
2日間ぶっ通しで眠り続けることもなくなった。
しかし、月に1度か2度、会社に近況報告に行く時は
家を出る時点からあらゆる症状が次々に出てきた。
フル症状といったところか。目まいは起こるわ、電柱にはぶつかるわ、
下ってくるエスカレーターに逆行して乗ろうとするわ、
会社のビルに着いたと同時に寒い季節なのに汗が噴きだし、
足が動かなくなる、無理やりエレベーターに乗ると
全身が硬直して、心臓の音が頭に響く、
会社で上司に向き合うと声が上ずって出なくなる、
自分はいったいどうなってしまうのか、仕事に戻れるのかと、
考えると涙が出てとまらなくなる。
そして、1月の中旬から休職して、およそ2ヶ月半後、
3月の末に半ば無理やりに復職した。