昔、在職していた代理店で忘年会が行なわれた。
その会社には1年ほど在籍したのだが、とにかく何かと変な会社だった。
どう変なのかをひとことで言えば、
「忘年会をフランス料理店で開くような会社」である。
社長がそこに決めたと聞き、
「なんでまたそんなとこを・・・」と先輩社員にたずねると、
「あの人たち(社長を含めた一部の管理職社員たち)は
 神経質で潔癖症だから、みんなでひとつの料理をつつくのがいやなんだよ」
と返答され、なるほどなあと納得した。

そして忘年会の日、私とその先輩社員とその他2人の「バカグループ」は
白い布がかかった長いテーブルのいちばん隅っこに陣取った。
カクテルグラスに注がれたシャンパンでの乾杯の後、
静まり返った室内にナイフとフォークの音だけが響く。
時折ひそひそ声の会話が聞こえるが、食器の音のほうが大きいくらいだ。
先輩社員が小声で「なんかこれって、お通夜みたいやね」とささやき、
他の3人がげらげらと笑う。
とすぐさま、テーブルの最前端にいる管理職社員が
「そこ、うるさいぞ、何騒いどんねん」と怒声をあげた。
そしてそれからの約2時間、室内はひそひそ声と食器の音だけが響き、
社長が発案した「じゃんけんゲーム」の時だけ、わずかな盛り上がりをみせたが
ほぼ終始おごそかな雰囲気の中で忘年会は終わった。

静かな忘年会が終わった後、バカグループの4人とさらに加わった1人は
駅に向かって歩く群れからそっと離れ、近くの居酒屋に繰り出した。
そして、量の少ないお上品なフランス料理では充たされていなかった腹に
どてやきだの砂ずりだの油ギトギトの揚げ出し豆腐だのを流し込み、
生ビールを何杯も飲み、ろくでもない話やら、下ネタやらを
さながらお互いにぶつけ合うかのように話しまくり、
腹をかかえて笑い、とあらためて忘年会らしい忘年会を堪能したのであった。